阿修羅のごとく
豆瓣
向田邦子シナリオ集 Ⅱ
向田邦子
简介
穏やかに暮らしているはずの実家の父と母.しかし,その父に愛人がいるとわかり,四姉妹は急に色めきたった.未亡人でお花の先生をする長女綱子,主婦の次女巻子,独身の図書館員三女滝子,ボクサーと同棲する四女咲子.母のために女性との関係を清算させようと相談をするが,表向きの顔とは別に,姉妹それぞれがのっぴきならない男と女の問題を抱えている.女に潜む阿修羅の顔を辛辣かつ愛おしく描いた,向田作品の真骨頂.
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言わずと知れた,向田邦子名作ドラマの一つ.
老齢にさしかかった父の不倫を知った4人の娘たちが,それを収めようと久しぶりに集まるが,現在はそれぞれ独立して暮らす姉妹たち.未亡人でお花の先生をする長女綱子は料亭の主人と愛人の仲,主婦の次女巻子は夫の浮気を疑い,独身の図書館員三女滝子は潔癖症,奔放な四女咲子はボクサーと同棲中である.さりげない会話や仕草から,猜疑心強く争いを好むという「阿修羅」の顔がちらちら覗く.そして何も知らないはずの母も,その面を深く秘めながら齢を重ねていたのだった.
シリアスでいて,ユーモラス.女心の深淵を,醜悪さも愛嬌も含め,見事に描き切る.
附録には手書き原稿,構想メモのほか,鼎談「家族の絆とは何か」(新藤兼人・松原治郎・向田邦子)を収録(1978年9月『婦人公論』).男と女,全くの他人同士が性愛でむすびつき「家族」を作るが,あくまでも他人同士の組み合わせを軸としたこの「家族」と,それぞれが生まれ育ってきた血縁でむすびついた元の「家族」.この二つの「家族」の間で揺れ動く微妙な心理を,進行役の社会学者・松原治郎氏が,新藤・向田各氏から聞きだしている.
構想メモは,向田邦子が作品のイメージ化をどのように図ったかが窺えるもの.書きなぐったような大層読みにくいメモではあるが,三女滝子役のいしだあゆみを中心に人間関係を構想したことがわかる.
解題はフリー編集者の烏兎沼佳代さん.「阿修羅のごとく」が放送された昭和54(1979)年1月13日当時の様子と,作品の読みどころをしっかりと紹介.ぜひ本シナリオ集を手にとって,充実の解題もお楽しみください.
「向田邦子シナリオ集」は,第 I 巻『あ・うん』の刊行以降,上々の評判.各紙誌に紹介記事が載り始めましたが,『朝日新聞』2009年5月9日(別刷be)の「再読ガイド」では,向田邦子の作品世界を知るなら,ぜひ「向田邦子シナリオ集」を,とのオススメのことばをいただきました.
今後の刊行もお楽しみに!
■《向田邦子シナリオ集 全6冊》
Ⅰ あ・うん
神社のこま犬のごとき男の友情とその家族の物語.戦争前夜,夫婦・親子・親友の細やかな情愛を描く,向田邦子最後の長編ドラマ.
(定価1050円)
Ⅱ 阿修羅のごとく
未亡人,主婦,堅物独身,同棲中…….父の愛人関係を清算させようと久しぶりに集まった四姉妹の胸の内をユーモア込め描く傑作.
(定価1155円)
Ⅲ 幸福
下町の工場で働く無口な兄,同居するしっかり者の妹.兄の恋人の登場がもたらした過去の因縁とは? 本当の幸福をしみじみ伝える.
(定価1155円)
Ⅳ 冬の運動会
冷たい実の家族より,靴修理屋の夫婦と過ごす方が素直になれる菊男.だが厳格な祖父・父もまた家庭の外に居場所があった…….
(定価1155円)
Ⅴ 寺内貫太郎一家
短気で喧嘩早いが,情に厚く涙もろい――石屋の主人・寺内貫太郎と彼をとりまく人々の物語.小林亜星主演,大好評のドラマ抄録.
(定価1155円)
Ⅵ 一話完結傑作選 付 全作品解説・年譜
東芝日曜劇場のために書いた一話完結のシナリオなどを収録.単行本未収録の初期作品も含む.全作品の解説,年譜付き.
(定価1155円)
各巻に,関連エッセイ,手書き原稿,対談などの附録付き.
生誕80年の今年,文藝春秋からは,『向田邦子全集〈新版〉』が刊行中.
岩波現代文庫 文芸145