台湾原住民社会の地方化
Douban
マイノリティの20世紀
松岡格
résumé
台湾先住民の20世紀を、エスニック・マイノリティのおかれた政治状況に焦点を絞って論じた本格的一冊。定住化、稲作普及、「国語」教育、保留地の 設定、選挙制度の導入など、彼らの行政的編入・統合にあわせて実施された戦前・戦後の政府による統治政策が、やがて先住民自身による社会運動によって克服 されていく。その道すじを、厖大な資料とフィールドワークをもとに丹念に検証し、「失敗の本質」に肉薄する。
contents
序章 単純化、地方化、そして台湾原住民社会
「原住民族運動」開始以前を問う/近代国家による単純化としての地方化/戦前から戦後へ持続する地方化/課題・方法と先行研究/使用する史資料について/フィールドについて/呼称と表記
第一部 地方化を目指す「理蕃」統治―起動から形式的完成手前まで
第一章 原住民の伝統的社会構造と国家による「蕃地」実効支配権奪取
部落と首長―原住民の伝統的社会構造
自律的共同体としての部落/首長を頂点とする社会階層制
ブダイ事件―実効支配権をめぐる部落と国家の攻防
「五ヵ年計画理蕃事業」と「南蕃の銃器押収」/ブダイ事件に関連する諸部落/ブダイ事件の経過/もう一つの戦いと部落の秩序・規範/ブダイ事件の結果と影響/「五ヵ年計画理蕃事業」の解釈
第二章 実効支配確立後の「理蕃」統治と地方としての組み込み過程
実効支配権確立後の「理蕃」統治体制
特別行政区域と警察による「理蕃」統治体制/警察職員の配置と管理体系/教育と単純化、およびエスニックな境界線
部落改変の方法―可視的ユニット「村」の作成
社会教育と部落内秩序の再編/政治秩序の国家的要約/可視性・統制力と部落の解体再編
「理蕃」統治の主軸としての地方化
平地原住民居住地域の普通行政区域編入と流用性極大化への道/「蕃地」に関わる経済利益と政治としての「理蕃事業」/対原住民政策の主軸たる政治施策
第三章 稲作普及による農業の単純化と地方化、および文化の単純化
台湾の「平地」におけるコメ政策とその影響/理蕃事業「授産」とコメ/理蕃事業「交易」とコメ/白く塗りつぶす―農業の単純化と文化の単純化/稲作普及と地方化―移住・水田セットへの批判とその結果/もう一つの稲作と米食の普及/小括―稲作普及と単純化・地方化
第一部総括 戦前の地方化政策と単純化の作用
第二部 地方化を進める「山地」行政―形式的完成から実質化へ
第四章「理蕃」統治と「山地」行政の連続性
継続性と共通性
「理蕃」統治と「山地」行政の継承性と共通性/保留地と経済施策における連続性/生活改進運動と文化施策における連続性
連続と非連続の同居―「山地」自治制度と郷長・村長の民選
台湾「光復」初期における「山地」自治制度の確立/「山地」自治の表看板、郷長選挙の始まり/郷長選挙の現状
第五章 「山地」行政とその施策の基本的性格
分割行政の背後にある政治施作―社会制度の強化と国民形成
行政区画の引き継ぎと社会統制/分割的・閉鎖的管理と「山地」開放論/「宣導」と国民意識の植え付け・定着
「山地」行政の過渡性と「山地」自治の単純化―国民形成と地方化の連動性
「山地」行政における特別措置とその過渡性/自治単純化の根拠―孫文の「遺教」/自治単純化採用の流れ―台湾調査委員会と接管綱要/自治単純化の根拠―中華民国憲法
第六章 「山地」行政体制―地方としての組み込み過程の展開
「山地」行政体制における山地郷の位置づけ
山地行政検討会の形式と参加者にみる「山地」行政の運営体制/山地行政検討会と隠れたコード/省・郷―地方政府間の上下関係
山地郷の組織と運営体制
生活改進運動を通して「山地」行政施策の執行過程を見る/山地郷の公務員/公職者と公務員/公務員と「山地」行政/郷長と「山地」行政
地方化完成の宣言と地方化政策の破綻
地方化政策の政治施策と原住民エリートの意識/経済・文化施策との決別から地方化の停止まで
第二部総括 戦後の地方化政策と単純化の作用
終章 結論と展望
結論
戦前から戦後にかけて行われた地方化/地方化の展開と単純化、単純化の帰結と地方化達成の失敗
課題と展望
「理蕃」統治の遺産処理における複雑性/残された課題と今後の展望