木
Douban
幸田 文
publishing house:
新潮社
1995
- 11
内容紹介
静寂のなかに佇んで対峙するとき、
倒木の上に育つえぞ松が、屋久島の巨杉が、
いのち終えてなお美しい檜が、秘めた感情を語り始める。
木は無言、しかし……。
「樹木に逢い、樹木から感動をもらいたいと願って」
北は北海道、南は屋久島まで、歴訪した木々との交流の記。
木の運命、木の生命に限りない思いを馳せる著者の眼は、木を激しく見つめ、
その本質のなかに人間の業、生死の究極のかたちまでを見る。
倒木の上に新芽が育つえぞ松の更新、父とともに無言で魅入った藤、
全十五篇が鍛え抜かれた日本語で綴られる。
生命の根源に迫るエッセイ。
本文より
木は口もきかず歩きもしない慎み深いものだが、なじみ親しむばかりが木との交際ではない、地を隠すもの、広さをまどわすものとしても、心得ていなくてはなるまいと思う。生きていのちのあるものは大概が、どこか、なにか、はたからは思いのほかの、あやしい一面をもっているらしいが、はからずも樹木の惑わしを垣間見たような気もした。これだから少くも一年四たび、四季の移り変わりを知るのは、ものの基礎だといえる。
(「木のあやしさ」)